H3-MoM_H³ 第22回:ライフサイエンス業界のリアル_20190418
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2019年4月18日(木)19:00-21:00 @ 神田小川町
(ライフサイエンス業界のリアル)
【講師】
大手製薬会社 シニアマネージャー
内海 雄介さん
東京大学工学部修了後、日本アイ・ビー・エム #IBM 、戦略系コンサルティングファームモニターグループ (Monitor Group) 、スタートアップ支援のアーキタイプ株式会社、エムスリーを経て大手製薬企業に参画。エムスリーでは、製薬企業の販売マーケティング活動をデジタルの側面で支援、それ以前よりコンサルタントとして、製薬企業の製品ポートフォリオ戦略、製品マーケティング戦略、および中・長期事業戦略立案、営業組織改革プロジェクトなどのプロジェクトを経験。
リアルタイムQ&Aサービス「Sli.do」(https://www.sli.do/ )イベントコード
D077
【投影資料】
製薬業界のデジタルトランスフォーメーションのリアル via Slideshare
【概要】
内海さん自己紹介
過去にIT営業、戦略コンサル、ベンチャー支援、エムスリー、製薬会社とキャリアを重ねてきたなかで、一貫して製薬業界 x IT x イノベーションというテーマについて長く携わってきた。経験からお伝えできることはお伝えしつつ、自分自身もこの場から学びを得て帰りたいと思っているので、よろしくお願いします。
ボランティア活動として、アジアの社会起業家を支援する very50 、障がいや難病に関わる生活情報をみんなで集めるコミュニティeSmileyも非常勤監事として支援している。
製薬業界概観(コマーシャル視点)
国内医療用医薬品市場は平成の30年間で5兆円が倍の10兆円規模に伸びながら、2015年をピークにゆるやかな減少に転じている
直近で急激に伸びているのは抗がん剤を中心とするSpeciality Pharmaの領域。糖尿病や高血圧といったいわゆるPrimary(生活習慣病領域)の市場規模は逆に縮小しつつある。
疾患領域ではなく、薬剤カテゴリーのトレンドとしては、世界市場のデータにはなるが従来主流であった低分子薬から抗体医薬品へのシフトが急激に進んでおり、上位薬剤も入れ替わりが始まっている
主要疾患の患者数は増えているが、それを上回る勢いでモダリティーシフトと後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進がかなり進んでいる。後発品の使用割合は直近で72.6%と、15年前から倍以上に上昇
関連:厚生労働省_後発医薬品の使用割合の推移と目標
https://gyazo.com/ce80ce52e5da7fbc4a70a704b00c3c98
サノフィ社の抗血栓生薬プラビックスは特許切れによる後発品浸透と薬価大幅引き下げのダブルパンチで、収益が50%以上の大幅減という甚大な影響を与えた。
関連:16年の国内医療用薬市場 C肝薬ハーボニーは売上2960億円 4製品が1000億円超 | ニュース | ミクスOnline
加速するリストラ:これら市場の変化に対応する形で各社リストラの動きが強まっており、最も人員の多いMRも縮小され始めている。MRは営業と見られがちではあるが、医師や薬剤師に薬剤の情報を正しく伝えることが使命であり、いわゆる「販売」はしていない。医師向けの接待などもかなり規制/業界側の自主規制が厳しくなっており、より一層本来の使命の役割要素が強まっている。
関連:2018リストラ時代に生き残る製薬会社MRとは? | 製薬会社MR激動時代!リストラ・早期退職・残留・転職を乗り切る為のノウハウブログ
生活習慣病からSpeciality Pharmaへの転換に伴い、処方する医師も町医者から専門医へ、薬剤選択も「微差の多数の選択肢」から「特徴差のあるいくつかの選択肢」へとシフトしている。MRによる営業/医薬品情報提供のモデルも大きく変化しつつある。また、情報を届けなければならない医師の数が少なくなり、より少ない医師に、より適切な、深い情報を届けることが必要になってきた。
相手にする顧客のタイプという意味ではリテール営業と法人営業というイメージかも知れない。
結果、求められるMRの体制も兵力の規模ではなく、一定の規模は必要ながら専門性や組織力にシフトしつつある。
上記背景を踏まえると、日本のMR数は劇的に減少していく前提で製薬会社の経営を考える必要がある。日本のMR数は2013年をピークに減少に転じており、年率▲1.3%程度で確実に減り始めており、3年間で2,567人が減少した。米国での例では、2011年から5年間で年率▲7%と高速に減少していった。日本でも同じことがこれから起こる可能性は十分ある。
MRの生産性を考えると、米国と日本でMR当り売上高は米国で66.7 ⇔ 日本は14.1と5倍近い開きがあり、ドラスティックに考えると現状の20%程度の体制でも現状の売上は維持できるでしょうという極論はあり得る。同様のことを医師数に対してやっても、MR当り医師数は米国で9.3人⇔日本で5.0人と、これでも倍近い開きがある
日米の診療科別の医師数を比べると、全診療科でみれば0.9x (日本のほうが医師あたり対応患者数が大きい)。他方で、一人あたりの外来患者数はOECD平均と比べても圧倒的に大きい(日本8,421人/年⇔OECD平均2,400人/年)。
ワークショップ1:製薬業界の営業組織の生産性を例えば3倍にするため、皆さんが組織のトップだったら何をしますか?
Group Answer.
MRにしかできない仕事にシフトさせる必要があるし、しなくてもいい仕事はデジタルなシステムで解決する必要があると考えている。医薬情報の検索であったり、情報提供をできるシステムが必要なのではないか。それを作れる職種の人を製薬業界のなかに入れていく必要があるのではないか。
Group Answer.
一番高額な、あるいは競争力のある医薬品に特化して、そこにMRを集中させる。そのためにデジタルトランスフォーメーションしていくことが大事になるか。VR越しに実在感のあるなかで、MRが営業するか。VRの市場はB2Bのほうが広がりが大きいともみられている。
Group Answer.
必ずしも医師のところまで行かなくても良い、医師がコレってどうなんだろうと思ったときにインバウンドで聞けるようなデジタルサービスを作ることができるのではないか。
医師コミュニティを組成して、そこに対して情報発信をしていくことが大事。
Group Answer.
営業が寝てても医師が情報をとれるようにするには、医師のスマホにアプリを入れてもらって、そこから情報提供する仕組みは作れないか。Q&Aに対応できる仕組みもいれて、問い合わせがあればオンデマンドで対応するような仕組みを作ることはできないか。その導入を促すのがMRの仕事になる
Group Answer.
インバウンドマーケティングに集約する
デジタルツールを活性化させる
Group Answer.
製薬メーカーの変化だけではなく、病院側の機能分化のトレンドも捉える必要がある。地域連携をしているので、医師側のコミュニティも分散型の場になっているし、グループが沢山できているので、そこに対して個人に対してではなく、集団に対して情報提供すべき
インターネットに自ら積極的に情報を取りに行く医師が日本にもだいぶ増えているので、地域包括ケアシステムのなかで、各地域のネットワークを持ち、そこのファシリテーターになっているような医師から医薬情報を出してもらうことが必要なのではないか。
Group Answer.
デジタルツールを前面に出して、人間でないとできない役割にMRを集中させる
医師の属性を適切に把握して、そのターゲットやキャラクターにあった人(自分でネットで調べるか、人から言われたほうが信じられるか等)のところに適切にMRを配置する
リモートで済むような内容(希少疾患の予後フォローなど)はリモートでやる
MR半減時代に備えて - リソース確保のレバー -
訪問効率
あいやすい時間、効率の良いルート、移動をなくす
ベルフェイスのインサイドセールスのようなソリューションを活用することも重要
インパクト
好みや状況に応じた適切な内容、研修の進化
ターゲティング
チャネル別の反応率分析
田辺三菱製薬はAI技術の活用によりMR活動の効率化を目指している
関連:MRの効率的な営業活動をAIが支えます
患者中心時代を見据えて
希少疾患領域が製薬会社の主戦場になる今後は、確率論的な広告型アプローチではなく、罹患している患者を把握し、個別に働きかけるワントゥワンの新しいアプローチが求められるはず。
希少疾患領域は世界9兆円。ここ数年で急速に進展している
新薬承認される医薬品も希少疾患治療薬がほとんど
武田薬品は希少疾患領域の製薬企業であるシャイアーを巨額買収
開発を加速させるゲノムデータベースの構築にやっきになっている。希少疾患は患者の数も少ないので、開発する上での臨床試験/治験のリクルーティングも大変、その後のマーケティングも重要。そこが競争加熱するようになっている背景にはゲノムデータの公開が進んできていることもあるhttps://www.evernote.com/client/web#?an=true&n=f6dd1b86-bf8a-439e-904d-2497b0baf1a6&s=s462&
いかんせん「希少」なので、確率論的なアプローチでは限界がある。
ATカーニーがまとめた患者のアウトカムにあたえる影響は、遺伝的要素に加え、100のうち40が患者自身の行動による影響が大きく、医療制度の質、社会的要因などはそれと比べれば決して大きくない。
患者の行動を把握しているプレイヤーは誰か。、最も個人のライフログをもっているGAFA等の米国テックジャイアントの存在感が大きくなってくる。Amazonは薬剤師の採用を強化している動きもあり、明確にヘルスケア領域への展開を企図している。
慶應義塾大学の宮田 裕章は患者アウトカムが予測可能な世界が到達するとみている。ライフログの浸透とヘルスケア業界との距離が近づく程度次第では、いわゆる疾患啓発が不要な世界もありえる。
関連:医療のAI活用、なぜ「共創」が必要なのか:医療:日経デジタルヘルス
製薬会社のデジタルトランスフォーメーション
2つの成功要因
イノベーション(未来・構想力)
カイゼン(実行力・忍耐力)
製薬会社という巨大組織にどうやって上記の2つをバランス良く取り入れられるかが鍵
変革のバリア
リソース不足
話を聞いてもらえない
使えないツール
「アナログ人間なんで」
変化に対する拒絶反応
大前提のリテラシーが・・・
人を動かす3原則 D.カーネギー
だいぶ悩んでいるので、古典を手にとってみました
1. 盗人にも五分の理を認める
2. 重要感をもたせる
3. 人の立場に身を置く(いかに日常に入り込むか)
どの営業マンが使ったら意味があるか、ハイライトを当てる対象の設定が超重要
「過去のデジタルツールにはこんな問題があった」と過去の過ちを自ら認める姿勢をもった
デジタルトランスフォーメーションの大前提
自分自身がソリューションの価値を心から信じる
自分自身の行動と信用
仲間増やし
スタートアップの事業開発 ⇔ 製薬企業の新規PJ企画をつなぎたい。ひとりオープンイノベーション
ワークショップ2:抵抗の強い新しいデジタルツールを製薬会社に導入・浸透させるミッションを負った時、皆さんはどのように働きかけ、どのような工夫をしますか? ※但し、権力者のサポートは最初から期待できないものとします
Group Answer.
強制できるものだったら強制する。勤怠管理システムもタイムカードから、今となっては昔が想像できないくらい当たり前のものになった。使えば絶対よくなるものであれば、簡単なものから始めていくことが必要。5人くらいでもいいんで、やる気あるとない人をまぜた少人数の少数精鋭からやってもらって、圧倒的な成果を出してもらう。
Group Answer.
MRはいろんな性格の人がいるなかで、デジタルに興味がある人を徹底的にFirst Moverにする。
とはいえ、社内からは結構難しい。MRのお客さんである医師に浸透させることが結果的に良い。自分も今の仕事でWeChatの利用を求められて、いやおうなしにLINE以外のツールを求められた。
Group Answer.
導入障壁は「めんどくさい」。そこをどう突破できるかは、相手次第。
【Q&A】
Q.なぜ日本のMR は生産性が低いのですか?また、生産性の定義は何ですか?
A. 定義は色々な考え方はあると思うが、一旦一人当たり売上とすると、今日出た話以外でもう一つの構造的要因としては、過剰に競争をしてしまっているから、という視点があると思う。ひとつの市場に必要以上に企業が参入した結果、競争相手が多く存在をアピールするために足繁く訪問するが、各社のシェアが低くなる。売上に関しては、米国の方が医薬品単価が相対的に高いということはあるかもしれないが、人数対比での生産性は日本のほうが米国より医療機関間の移動時間が長いということはまず無いと思うので、それ以外に説明出来る要素が思い当たらない。
Q. 高齢化が進展しているにも関わらず生活習慣病領域の市場が縮小しているのが不思議なのですが、これは薬価が下げられているからなのでしょうか?
A. Yes。患者数の伸び以上にジェネリック医薬品の対応による影響で単価が下がっている。
Q. ePROや治療アプリなどは、どのように製薬企業からは見えているのでしょうか?
A. 各社"beyond the pill"を叫び、どこの会社も可能性を模索している。一方でアプリの効果で疾患が予防できると薬剤の売上が下がることでもあるので、既存事業の組織、発想で取り組むのはそのようなカニバリゼーションで何かと難しいと思う。個人的な見解ですが。